Rookie Chase - 閑話
年始の話
「もはや移動時間だけが唯一の休み状態……」
「いやどう考えても律さん働きすぎ」
「三が日だけでも日本にいられてよかったよ……」
仕事始め――という言葉は果たして正しいのか。そういった意味では、昨年からずっと休みなく忙殺されている律としては、仕事を納めた覚えもない、というのが正直な感想である。
昨年は12月20日――咲の誕生日には何とか帰国し、その翌日にはまた海外にとんぼ返り。残念ながらクリスマスを自宅で過ごすことは叶わず、大晦日の夜に何とか帰宅した。そこから片付けるべき仕事を片付けつつ、合間の時間で初詣。友人にろくに挨拶をする暇もなかったので顔を合わせていないが、会えば確実に布団に叩き込まれるような状態ではあったので、会えなくてよかったのかもしれない。
年末までの間に芹が片付けてまとめておいてくれた仕事については、全て片付けることができた。問題は今手元にある仕事が、芹に任せることはできないということだ。
「てかこの時期に仕事振ってきたの、ぜーったい嫌がらせだと思うんすけどー」
「そんな気がする……。でも仕事内容はどれも普通にいつも通りの仕事だったからなあ」
「それはそう……でもあんだけ色々あったのに、普通に律さんに仕事頼むの怖くないすか」
「ま、本当に『院』が仕掛けてきたんだっていう証拠は何ひとつないからね」
昨年巻き込まれた事件の数々を思い出す。考えてみれば、『院』の『ロード』がレイラに代わってから、まだ1年も経っていないのだ。随分と濃い1年だったな、と考えると笑ってしまう。
先月久しぶりに会ったレイラは、相変わらずだった。腹の底は見えない。改めて元帥の座に就かないかという打診を受け、首を横に振った。そう、と笑ったレイラからそのまま仕事の依頼をされ、他の仕事と合わせて必死に片付けていたのが年末のことだ。報告を上げる為の諸々がまだ終わっていない事実からは、本当に目を逸らしたい。
「……ま、依頼系は片付けておけば文句言われないし。一番気楽ではあるよね……」
「ちなみに律さん、年明けてからどんくらい寝ました?」
「……え。覚えてない……いや、ちょっとは寝たけど……」
「マジか。俺と喋ってないでとっとと寝るべきっす」
「わぷ」
ぽすん、とネックピローを押し付けられる。寝たいのは山々だし、長時間移動になるのでどこかでは寝るつもりでいた。それでも、今のところ神経がぴりぴりしていて、まだ眠れる気がしない。
ネックピローを少し外して隣を見る。律と話すのを切り上げて遊ぶつもりなのだろう、荷物の中から携帯ゲーム機を取り出した恭が見えた。そういえば最近流行りのゲームを買ったのだという話をしていたな、と思い出す。恭は恭で、こんな移動時間でもないと遊ぶ時間が取れないのだろう。身体が資本の恭は、仕事のときは睡眠時間をきちんと取るように心掛けていることを知っている。トレーニングも1日たりとも欠かさない。家に帰れば、優先されるのは憂凛や育児のこと。こういった息抜きの時間は確保させてあげるべきだろう、と息を吐いて、律はネックピローを頭の後ろに回して目を閉じる。
眠れる気はしないが、それでも体は休めておかなければ。疲労で判断能力が鈍るのは、最も好ましくないことだ。
「……恭くん」
「んー? 何すか?」
「いや……、今年もよろしくね」
「よろしくお願いします……? えっ元旦にも言ったっすよ、急にどうしたんすか」
「何となくー。じゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい。しっかり寝て!」
「はーい」
――きっと、夢は見ない。