Defiled Bliss - 閑話02
この先の話
対外的には熱中症で体調を崩したということになっているので、あまり長々休むわけにもいかない。椿に散々渋られはしたものの、いつまでも禮知に現場仕事を全て任せているわけにもいかないので、律は仕事復帰を断行していた。代理の礼を言うべく禮知に連絡を入れたとき、「マジでアイツの子守勘弁してもらえないすか」と真剣に言われて、だいぶと笑ってしまった。元気いっぱいに空回る恭に、随分と翻弄されたようだ。
「ちゃんと禮知くんの言うこと聞かなきゃ駄目でしょうが」
「えっ何で怒られるの俺なんすか!? 俺ちゃんと仕事してたもん!」
「禮知くんに怒られなかった?」
「おこっ……られたけどぉ……」
「ほらー」
笑えば、恭が憮然とした表情で唇を尖らせる。ふたりで上手く仕事を回せるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。少なくとも恭には、禮知の仕事のやり方や戦い方に慣れるための時間が必要だろう。こういったときはこう動く、というものを、頭ではなく体で覚えていくタイプなので。とはいえ、これでも昔よりは考えて動くようになった方だ。
「律さん、今回の件で俺思ったんすけど」
「ん?」
「『院』の話、やっぱさすがに桜っちとかには話しといた方がいいんじゃないすか?」
「何で。結局今回の件は『院』関係なかったよ」
「確かにそうっすけど……いや全然関係ないわけじゃないし……」
ううん、と困ったように眉を寄せる恭が言いたいことは、分かっている。
――現在、律は明確に狙われている。いつ何が起こるか、本当に分からない。だからこそ少しでも、と恭は思うのだろう。そう言えば憂凛にも尋ねられたな、と数日前のことを思い出す。誤魔化しきれないだろうと判断して本音を零したそれを、憂凛は恭には話さなかったらしい。
憂凛が問い詰めれば、恭はボロを出すだろう。そう分かっているはずなのに憂凛が恭に何も聞いていないのは、律の本音を消化しきれていないだろうか。悪いことをしたな、と苦笑って息を吐く。
「正直もう誰にも何も知られないままで片付けちゃいたいなー」
「えーでももうだいぶバレてんじゃないんすか?」
「まあ、だろうね。何かあんなコイツ、くらいのことは余裕でバレてるよね」
「でも言わない?」
「言わないよ、意味がないから」
「意味?」
「俺以外がわざわざ『院』と関わる意味」
とはいえ、アクシデント的に巻き込まれた朱緋には助力を求めたが。そこは共に『ウィザード』であり『院』の標的になりかねない者同士だ。特に朱緋は、その存在が露見すれば即座に研究対象になりかねない。古来より続く呪いのおかげでそれを免れているというのは、どうにも皮肉だ。
「俺としてはそういう問題じゃなくて……、なんすけど」
「分かってるよ」
「……律さんが駄目かもしんないって思ったら、俺、みんなにバラしてもいいすか? そのときは怒らない?」
「怒る」
「えー」
「だって絶対俺怒られるじゃん。八つ当たりする」
「ひでえ!?」
もう、と文句を漏らす恭に、律はまた笑う。分かっているのだ、自分が怒られて然るべきであることは。いつか手遅れになるかもしれない危険な道を選んでいることも。
それでも。
「ごめんね。もうちょっと頑張らせて」
「……ガンコオヤジ……」
「誰がオヤジだ」
その結果、誰かを泣かせることになったとしても――今は、まだ。