Malicious Forethought - 閑話

罪悪感の話

「ただいまー! うーん、やっぱりここが最高! 朱緋さんのおるとこが俺のおるとこ!」
「一昨日東京で会うたやん」
「それはそうやけど」

 仕事を終えれば、侑宏が内偵の調査を続けていく意味もない。ということで、朱緋は早々に侑宏を東京から呼び戻していた。今回は本当に余程帰りたかったのだろう、即座に後処理をして戻ってきた侑宏は本当に分かりやすい。
 最初から半年程度だろうと踏んではいたので、ほぼ予想通りに終了はした。しかし、どうにも後味の悪い仕事をしてしまったことに、気分も落ちる。基本的に仕事のことは、プライベートに持ち込みたくはないのだが。

「……茅嶋さんに悪いことしたなあ……」
「今回はしゃあないんちゃいます? 最初の時点では邪魔することになるなんて思ってはらへんかったでしょ?」
「それはそうやねんけど」

 茅嶋家の調査が入っているようだ、と侑宏から報告を受けたとき、嫌な予感はしたのだ。しかしその内容について、こちらから問い合わせをするわけにはいかない。それは月ケ瀬が調査をしているということを言っているのと同義になってしまうからだ。余程のことがない限り、仕事のことについてはどんな相手にも漏らすべきではない。何より、向こうから聞かれたわけでもなかったので。
 さてどうするべきか、と考えているうちに、依頼は進んでいってしまった。恐らく律の邪魔をすることになるだろうと思いながら、仕事は完遂した。後味の悪さを誤魔化すために恭に会いに行き、伝言を頼んだ。謝罪だけで、律は気付くだろう。彼の調査もかなり進んではいたはずなので。

「これで仲悪くなったら嫌やなー」
「朱緋さん、割と茅嶋さんに仕事の依頼してますもんね」
「歳近いから話しやすいっていうのもあるけど。あの人、絶対何かしらはちゃんと結果出してくれる人やから頼れるんよね」
「それはそれですごいな」
「大変やなあと思うよ、いっつも」

 ――結果を出すことを、当然とされている。
 裏を返せばそれは、常に結果を出さなければならないという重圧に曝されるということだ。敗走は許されない。その点は朱緋の場合、自分が死ぬだけなので気楽だな、という考え方をしてしまう。そんなことを口にすると侑宏は怒るだろうが、そもそも仕事の質がそういうものなので仕方がない。
 生き残るすべを模索できる立場でありながらしかし、「できない」が許されない。――そういった立場の人間の邪魔をしてしまったというのは、本当に。

「あ、でももしかしたら有り得るんちゃいます? 朱緋さんと茅嶋さんとこを仲違いさせようとしてる説」
「ないでしょ。そもそも依頼主、動いてるの僕やって分からんのに」
「あ、そうか」
「まあ、ワンチャン狙われた可能性は否定せえへんけどね」

 どこかに依頼して処理をさせることで、どこかと諍いが起きれば。その可能性は充分に考えられることだっただろう。
 何かしらのアフターフォローは必要だな、と朱緋は息を吐く。高階 華純の動きは時折おかしな部分があった。そのおかしな部分が、律が彼女を調査していた理由なのだろう。――このタイミングで消さないといけないと判断されたということは、何かしら踏み込んだという可能性も高い。

「今度来たときめっちゃおもてなしします?」
「あからさますぎてそういうんはちょっとなあ」
「うーん……。ま、何か仕事の手伝いとかで手を打つんが一番ええんちゃいます? 対価的に」
「せやね。手伝えるかどうかは分からんけど」

 肩を竦めつつ、時計に目をやる。そろそろ店を閉める時間だ。

「閉店準備するかあ。あっくん、せっかく帰ってきたし一緒にごはん行く?」
「めっちゃ行く! やったー朱緋さんの奢りや!」
「僕何も言うてへんけど」