Silent Alter - 閑話01

関係の話

 今回の事件で専門的な治療が必要と判断された面々に関しては、律の手配で事はが務めている病院への入院措置が取られた。知江と与々に関しては「まだまだ時間がかかるから」とのことで、面会の許可は下りていない。
 かなりの重傷ではあったものの、禮知が一番「何とかしやすい状態だった」とのことで、手早い治療の結果2日後には話せる程度までには回復していた。となれば足繫く見舞いに通ってしまうのが恭の性である。折しも律から「俺も一週間は動けないし、あと後片付け馬鹿ほどあるし、まあ次海外行くの10日後くらいまで延期かな」との話があった。それならば会えるときに会っておこうと考えたのだ。

「たっだいまー」
「あ、おかえりなさーい」
「ぱぱー!」
「ただいま、ういうい。ママとれおれおも」

 ぱたぱたと走って出迎えに来た憂生を抱き上げ、憂凛と玲生の待つリビングへ。一通りああだこうだと言いながら過ごした後、子供たちが二人で遊び始めてようやっと一息がつける状態になった。それでも危険がないよう見守りながらという形なので、目は離せない。その状況で、口を開いたのは憂凛だった。

「らっちっちさん、今日はどうだったの?」
「元気そうにしてた! まだまだ事情聴取とかいろいろあるらしいけど、落ち着いたら退院もしていいって言われてるって」
「そっか、よかったねえ」
「うん」

 麻葉 禮知という男が本当はどういう人物なのか、今まで何をしていたのか、詳しいことを恭は知らない。
 ただ恭が知っているのは、禮知が知江を守るために必死だったこと。そして何だかんだと言いながら――茅嶋家への義理立てもあったのかもしれないが――恭との縁を切らずにいてくれたこと。邪険にしながらも、恭の話を聞いてくれる人間であること。それだけで、けれど恭にとってはそれで充分だった。
 禮知の側には思うことはいろいろとあっただろうが、それでも恭にとっては頼りにしていい人間の一人だと思っている。最初の頃からずっと、『分体』には『あんま信用したらあかんのやぞ!』と口酸っぱく言われてはいたが、彼のことを疑ったことは一度もない。

「……俺さあ、いつからっちっちのこと、ゆりっぺに紹介したくて」
「ん? 茅嶋さんとこのあれこれで何回か会ったことあるよ? あんまりお話ししたことはないけど、挨拶程度なら」
「あ、うん。だから、えーと……ちゃんと紹介したい? って感じなのかな。ゆりっぺにはずっと、一回らっちっちと話してみてほしいなって思ってて」
「それは別に全然いいけど、何で?」
「あのー……、……笑わない?」
「笑わない」
「……多分、あのひと、俺にとっては松崎先輩に、似てて」

 恭の口からこぼれた言葉に、驚いたように憂凛の目が見開かれる。上手く説明できないが、恭にとってはその言葉しか見つからない。

「あ、代わりにしてるとかそういうんじゃなくて、らっちっちはらっちっちだと思ってる! それはもちろん! でも……何だろ、何かうまく言えない……」
「……うん。そっか、なぎちゃんかあ。じゃああれかな、恭ちゃんにとっては、頼れるお兄ちゃんみたいな感じ?」
「あー、そう、なのかも……?」

 もし渚がここにいれば、禮知と似ているなどと言えばひどく嫌そうな顔をしただろうが。
 それでも、きっとどこかが似ている。容姿や性格ではなく、どこかもっと本質的な、うまく言葉にできない部分。そこに自分は甘えてしまうのだろうと、何となく。

「今後のことは今律さんと話してるって言ってたし、機会があったら」
「ん、分かった。そうやって聞いちゃうと私も気になっちゃうし」
「俺としては絶対ゆりっぺも仲良くなれると思うんだよなー。あ、でも嫌だったら全然! 無理にとは!」
「嫌じゃないよ。恭ちゃんが大事にしたい人は大事にしてほしいし。……あ、でも乙仲くんとはちょっと……複雑だから……」
「うぐ。ご、ごめん……」

 冗談、と憂凛は笑ってくれるがしかし、その点についてはいろいろな人が複雑な感情を抱えていることは分かっている。
 ――麻宮という魔術師の家は、失われた。それがなくなった結果として、禮知と知江がこの先どうなっていくのかは、恭には分からない。律がいろいろと動いているようなので、悪いようにはならないだろう。全容は分からないが、二人がいろいろと大変だったことは分かっているので、少しでも平穏に過ごしていければいいな、とは思っている。

「今度うちに呼んでみようかなー」
「いいよー。あ、ねえ、うーちゃんがすっごい懐いたらどうする?」
「泣く」
「それは大変だ」