Blockage Effect - 閑話
見解の話
工場から戻った後。神社で恭の様子を確認し、問題ないと判断してから、律は自宅に戻っていた。恭には念の為、一日神社に泊まるように言い聞かせておいた。さすがにあの状況に陥って、本当に何もないかどうかは難しい。
そして諸々の後処理を済ませ、ようやく眠れる――と思ったタイミングで、ふらりと巧都が現れた。
「さて、じゃあやっしーの見解を聞こうか」
「いや寝かせろ」
訴えてはみたものの、ソファにふんぞり返って足を組んでいるその姿からは、律の拒否を許さない重圧。大きな溜め息を吐きつつ、諦めて対面に腰を下ろすことにする。満足そうな頷きが鬱陶しい。
「……全部見てたじゃんそもそも」
「そうだな。30分寝かせろって嘘吐いて急いで警察に連絡取ってたのも、眠いって理由付けてわざと調査サボったのも、全部見てたな」
「……意地の悪い……」
「初手でぼーっとしてて巻き込んじまったから、どうにか引き離せないかずっと考えてたもんなあ?」
「……神社でああなっちゃった時点で、まあ巻き込むことは仕方ない部分もあるよ……下手な嘘も吐けないしさ……」
連絡を受けた段階で、工場を再調査する必要はあることは分かっていた。工場の後始末が中途半端になっていたのは、律が事前に人払いを要請したからだ。まだ何かしら残っている可能性が高いので、一旦必要最低限での偽装で撤退してもらった。作業中だったことは本当に申し訳ないと思っているが、このままでは仕事をやり残したことになってしまう。
恭を浄化しようとすると気分が悪くなったと聞いたとき、すぐに『院』に思い当たった。以前律がパトリックにやられた際、アレクの回復を妨害する術式が組み込まれていたことを覚えていたからだ。似たようなものの可能性が高いと踏んで、英二に助力を依頼した。もし『エクソシスト』としてそれが解除可能なら、それが一番早い。結局のところ、そんなに易しくはなかったが。
調査に二人の同行は避けられない。何も見つからなければ、適当なところで一旦別のセンを考えないかと提案しようと思っていた。それが聞き入れられないようであれば、タイミングを見て一人で対応するしかないとも考えていた。偶然とはいえ術式が発動してしまったのは、律にとっては想定外の出来事。
「あれ、何だったとやっしーは考えてる?」
「……俺か恭くんが、昨晩『怪異』と戦闘中に少しでも流血していることがあれば、あの術式は発動してた。『カミ』との繋がりを断つ術式、つまりはアリスちゃんとぶんちゃん対策。それに俺だって『サモン』が使えないとどうしても魔術の出力は落ちるし、そういう点でも目論んでたことはあるんじゃないかな。遠隔デコイ置いてたくらいにはちゃんと用意してたわけだし」
「なるほどなー?」
「巧都の見立ては違う?」
「俺の意見聞くなら別料金だけど」
「やっぱり」
どちらにしろ、この調子では巧都の意見は聞けないだろう。律が立てた仮説が合っているかどうかは分からないが、おおよそ外れてはいないだろうと考えている。声が聞こえるように恭を誘導し、血の雨の中で術式を発動させ、罠にかけた。その先が上手くいかなかったのは、向こうにとっては想定内か、それとも想定外か。結果として陵と英二が来たことは想定外だった筈だ。
――巻き込んでしまったな、と考えると気が重い。不可抗力だったとはいえ、『院』とのことに巻き込みたくはなかった。そう伝えると、きっと二人は怒るのだろうが。
「……、まあまあ、今回の犯人はとっとと捕まえないとね」
「目星は?」
「ついてないけど、術式は見たし。会えば絶対分かるやつでしょ」
「いい自信だ」
ふ、と笑った巧都の姿が消えて、律は肩の力を抜く。どうやらかの『カミ』が聞きたかったことは以上で終わりらしい。
一度体を休めて、その後は桜や咲と過ごしたい。その時間を取れたら、次は一度書類整理のために芹に助力を頼んで。今後のスケジュールを考えていると、また目が冴えてしまう。早く寝よう、と瞬いて。
――ひとまずは、恭が無事だったことを喜ぼう、と決めたのだった。