Storm Harbinger - 閑話04
訓練の話
戦闘においてモノを言うのは、結局のところ実力ではあるのだが。
さて、それではその実力の差を何で埋めるか、となれば、経験値とセンスがモノを言う。
「今日はえらく単調だなあ? つまんねえ、殺すぞやっしー」
「あ!? 何万回俺のこと殺す気なわけ!?」
「俺がやっしーを何万回殺そうとそれはノーカンだからいいんだよ」
「ノーカンって何!? いいわけなくない!?」
360度、全く逃げ場がない。様々な魔術が雨のように降り注ぐ状況で、律は完全に防戦一方を強いられていた。魔術の雨を降らせている張本人である巧都は、鼻歌でも歌い出しかねない雰囲気だ。それこそ、巧都がその気になれば、現在律が何とか保っている近郊など、あっさり崩してしまうことは分かりきっている。遊ばれているのだ。
時折行われる、巧都との戦闘訓練。彼曰く「実益を兼ねた楽しめる対価」という扱いであるこれは、裏を返せば巧都が楽しめない限りは対価として成立しない。そのため、律としては正直この対価の支払い方はあまり好きではない。得るものは確かに大きいが、疲労が段違いだ。
次から次に防御を展開しなければならないこの状況で、思考に隙を作れない。何か手を考えたくても、そちらに意識を持っていけば防御が疎かになってしまう。つまらないと言われたところで、こちらにはこれ以上打つ手がないのだ。しかし突破口を見つけなければ、ずっとこの訓練から解放してはもらえない。
「飽きてきた。やっしーあと10秒で何とかしろー」
「はい!?」
「いくぞー、じゅー、きゅー」
「この暴君!」
防御を崩すわけにはいかない。崩せばそのまま魔術の雨を喰らって、即死してしまうことが目に見えているからだ。防御壁の多重展開、展開した先から引き剥がされて撃ち砕かれて消失してしまう。なら、打てる手は。
「さーん、にー」
「……ああもう!」
防御壁を攻勢に転用する他に手が思いつかない。短時間でできるアレンジなどたかが知れているが、巧都に『面白い』と思わせればいいだけならば、チャンスはある。
刻んだ『リズム』、口笛の代わりに声を使って一閃させたそれは、防御壁の性質を変化させる。撃ち砕かれた瞬間に、消失ではなく破片へと変化していくそれを。
――そこでぱん、と意識が一瞬途切れた。
「はい、やっしーの負けー」
「……馬鹿じゃないの間に合うかあんなもん……」
「はっはー。でもやっしー詰めると思考スピードも展開スピードも上がるからなー。ま、殺しちゃったけど」
「殺しちゃったけど、じゃないんだよ……」
こちらに『殺された』という自覚はないので、結局のところ何ができて、どこがどうなったのかすら分からない。正直なところ本当に殺されているのか、気絶で済んでいるのかも、律には判別のしようがないのだ。
厄介なものと縁を結んだなとは思えど、この男のお陰で助かっている局面があまりにも多すぎて、文句も言えない。
「さ、起きたろ。続き続き」
「ハイ……ねえこれいつまでやるの……」
「そりゃまあ、俺が満足するまで?」
「仕事片付けたい俺……」
「ははっ。その辺に心配いらねえこと、よく分かってんだろ」
笑う巧都に、溜め息を返して。
間を置かず空間から噴出してきた業火に、再度防御壁を多重展開したのだった。