Storm Harbinger - 閑話03
ホームシックの話
「帰りたい」
「俺より律さんのがホームシックじゃないすか、涼しい顔してたくせに」
まだまだ出張期間は終わらない、ある日のこと。
仕事を終えてホテルに戻ると、スマートフォンに憂凛から茅嶋家にお邪魔してきたよ、の一文と共に、写真が届いていた。憂凛と憂生と玲生、そして桜と咲の5人のショットが1枚。すぐにその写真を律に見せたところ、返ってきたのが冒頭の言葉である。
「そもそも俺さあ、咲が生まれてからトータルで3か月くらいしか一緒に過ごせてないんだよ? かわいそうだと思いませんか」
「それは確かにそう。でも仕事再開するって決めたの律さんでしょ」
「しなくていいならしないよ……あーもー……、……でも元気そうでよかった」
「ん? 律さん、桜っちと連絡取ってないんすか?」
「取ってるけど、基本は仕事のことだけ。写真とか送ってこないで、後で見せてって頼んでる……」
帰りたくなるから。
ソファの背もたれに顔を埋めて、呻くように呟く律に思わず笑ってしまう。同時に、律も本当に父親になったのだなと、知られたら怒られそうなことを考えて。
――それでも、律のこういう姿を見ると、どうしても安心する。そう思ってしまうことは、許してほしい。
「えー、じゃあ見せない方がよかったんすかこれ?」
「もう見せた後にそれ言う? もっかい見せて」
「見たいんじゃん」
「でも俺に転送するのはまじでやめて」
「こんなに可愛いのに!?」
「……日本帰ってから送って……」
「声死にそうっすよ」
以前『院』に呼び出されたときには、こんな姿を見せてくれることはなかった。話題にしなかった、ということもあるかもしれないが。或いは、律自身の気持ちの問題かもしれない。
どちらにしろ、桜や咲のことを考えられるというのはいい傾向のようにも思う。あれこれと色々抱えてしまっているからこそ、そういった部分を大切にしてほしいとも思うので。
「……何で恭くんにやにやしてんの……」
「え? 律さん嬉しそうだなって」
「……そりゃ、まあ、ね」
苦虫を嚙み潰したような表情になった律には、きっと少しの気恥ずかしさもあるのだろう。それでも、スマートフォンを受け取って写真を眺める律の表情が柔らかくなるのを見ていると、あの日の自分の選択はきっと間違っていなかったのだろうと思える。
桜の背中を押しながら、何度も律と話をした日々。
――この人が家庭を持とうと思ってくれたことが、本当に、心から嬉しい。
「帰ったら咲ちゃん絶対おっきくなってるっすよ」
「分かってるよ。この間一週間くらいだったのにもうそれ思ったしさあ……」
「あはは」
「いつも恭くんが言ってた意味、やっとちょっとちゃんと分かれた気がする」
「寂しいすか?」
「うん。でも、楽しみだね」
「でしょー?」
「だーから、にやつかない」
「あいでっ」
スマートフォンを返すついでに軽く額を小突かれた。思わず額を手で押さえつつ、名残惜しそうにスマートフォンを恭の手に渡す律を見ると、やはり笑ってしまう。
これもまた、守りたい日常のひとつで――この先も続いてほしい、ささやかな平穏だ。