Storm Harbinger - 閑話02

事後報告の話

 明らかに恭の顔が不貞腐れている。
 モルテンとヘルトの二人にテストの内容を伝え、二人が承諾した後のことである。テストについてリノに助力を頼んだ件は恭には話していなかったので、そのせいかな、と律は息を吐いた。

「恭くんは何を拗ねてるの……」
「……律さんて、リノさんとフツーに連絡取ってたんすね、今でも」
「そりゃまあ。たまに仕事頼んでるし。報酬先払いしてるから」

 茅嶋家所有の洋館は、今でもリノが日本に戻ってきたときの拠点になったままだ。その対価として仕事は何度か引き受けてもらっているが、それほど数は多くない。あの大鴉は基本的に、『自分にとってどちらが楽しいか』という感覚で生きている。仕事として依頼したからといって、対象に肩入れする方が楽しいと判断されてしまうと、話がややこしくなる。どちらかと言えば、『ウィザード』としてのリノを頼る側面の方が多いだろうか。ヒトと交わって生きているとしても、彼はヒトではない。魔術の使い方の根本が既に違う部分もある。巧都とはまた違うものを得られるという点で、時折魔術の話を対価代わりに聞いている程度の付き合いだ。
 今回のことは、リノにとって『楽しい』ことだと踏んだ。その読みは間違っていなかった、と考えていいはずだ。どれくらいの期間モルテンとヘルトを振り回してくれるかは分からないが、充分に時間は稼げるだろう。

「リノさん探しって、律さん仕事受ける気なさそう過ぎて」
「ん? ないことはないけど。でもとりあえず二人の身元は調べないといけないからね」
「嘘吐いてるようには見えなかったけどなー」
「そうだね。でも俺には、本当のことも言ってないように見えたよ」

 二人がこちらを信用しきっていない、というのもあるのだろう。肝心な部分を話してはいないだろうし、話の中で引っかかりを感じる部分も多々あった。無理やり話しの整合性を合わせているような、そんな部分も。
 だからこそ、まずは二人のことを知らなければならない。とにかく、話はそれからだ。

「うーん……むずかしー……」
「恭くんが助けてあげたいって思う気持ちは俺も尊重したいし、調べるための時間稼ぎだよ。恭くんだって、本当かどうかは先調べなきゃって言ったでしょ」
「んん、まあそれはそうっす……でもよりによってリノさんって……」
「おっとそこに戻ってきたか」
「その気になったら絶対見つけられないやつじゃないすか……」

 リノの実力については、恭もよく知っている。あの二人を見て、そしてそれが言えるのだから、恭の見立ては正しい。あの二人の実力を、きちんと見抜くことができているのだろう。全てを見たわけではないが、それでも今のところ、対処ができない相手ではない。そして顔を合わせた以上――縁を繋いだ以上、前のように完全に痕跡を消すことは難しくなる。
 適当なところで見つかってはくれるだろう。或いはこちらの想定以上の実力で、もっと早く見つけることができるかもしれない。どちらに転んでも、損はない。

「……てかリノさんと長いこと会ってないな俺……」
「響くんと別れてからは、色んなところ転々としてるらしいからね。まあ元より鴉だし、一つのところに定住するタイプじゃないでしょあの人」
「それもそっか。ん-、でも会えるんだったら、小夜ちゃんの話聞いてみたりしたかったんすけど」
「言わなくていいこと言うタイプの人だから全くオススメはしない」
「うぐ」

 恭が気になっていることも分かるが、それでも、変に傷を抉るようなことをされるのは避けたい。愉快犯的に傷口に塩を塗られるのは、お断りしたいので。
 その言葉の意味を、恭も分かってはいるのだろう。でも、とごねてこない辺りは、恭の中でも迷いがあるということだ。――いつか、きっと来ないと分かっているその願いは儚く、それでも恭の中では今、とても大切なものなのだろう。いたずらに掻き回されたくはない。きっと。

「うー……もう。ところで、二人の調査って」
「とりあえずぶんちゃん頑張ってね」
『やっぱりそうなるんかー!?』