Dear Friend - 閑話02
仕事仲間の話
月ヶ瀬という家が、古から続いている『ウィザード』の家系であるということは、基本的には知られていない。見る人が見たところで、彼らを『ウィザード』だと判別することは難しい――そういうすべを、彼らは知っている。とはいえ騙せない存在がいることも確かではあるので、やはり表立ってということはしない。
その力を、明かさない。だからこそ彼らは影として生きている。
「でも律さんずっと月ヶ瀬さんと仕事してんすよね」
「元を正すと、俺のひいおばあちゃんの師匠がたまたま月ヶ瀬の人だったんだって」
「ひいおばあちゃん」
「そ。茅嶋家で一番最初に『ウィザード』として目覚めた人」
今のように、何でも調べて情報を手に入れられる時代ではない。困っていた彼女をたまたま見つけた当時の月ヶ瀬の当主が、見かねて手解きをしたのだと聞いている。そういった縁もあって、茅嶋家は数少ない月ヶ瀬家の本来の姿を知っているのだ。
「裏仕事引き受けてくれてるところがあるっていうのはまあ知られてることなんだけど、そこから月ヶ瀬の家には辿り着かないらしくて」
「へー。調べてもっすか?」
「そう、いくら調べても。基本的に彼ら、名前出さないし」
「律さんぽろぽろ名前言ってるけどいいの?」
「大丈夫、聞かれても忘れるから」
「はえ」
「彼らの名前はそういうふうになってるんだって、昔から。どういう術式なのかさっぱりだけど」
彼らが認めていない限り、『月ヶ瀬』の名を『ウィザード』のものとして記憶し続けることはできない。記憶として、そして記録としても保ち続けることができない。本当に古い時代からそういった術式を使用し続けているのは、ひとえにその存在の特殊性からなのだろう。
律とて彼らの力の全てを、そして仕事の全てを知っているわけではない。そこには踏み越えた瞬間に命を落としかねない境界線があると、そう知っているからこそ。
「はえー……朱緋さん、すっごいほんわかした人なのになー……」
「人は見かけによらないよねえ」
「あ。律さんもその名前覚えられない術式教えてもらえたら、『院』から逃げられるのでは!」
「うわ超魅力的……。でもまあ俺には使えなさそうなアレだし、夢物語過ぎるかなー」
そっかあ、と心底残念そうな恭に苦笑しつつ。――それは恐らくヒトの扱うものではない、と恭に教える必要はない。
月ヶ瀬の成り立ちを聞いたとき、その『真実』を知ったとき、律は合点した。彼らが扱う魔術は正確には魔術とは呼べない、それでいて魔法でもない。恐らくは、権能と呼ばれるそれに近しいのだろう。しかし彼らは一応はヒトの身だ、そこに大きな制限を受けてはいるはずだ。彼らの家系の『残り方』も含めて。
とてもではないが、真似はしたくない。そこを踏み越えることは、ヒトである限りは不可能だ。律の限界よりも遥か先、手が届かない場所にあるもの。
「ま、俺は名前が売れてないと仕事にならないし」
「あ、そっか。依頼とか来なくなるとそれはそれで困るんすね」
「そ。まあこんな仕事、あんまない方がいいけどね」
「そうもいかないぞってことくらいは、さすがに俺も分かってるっすよー。あれ? でもじゃあ、月ヶ瀬さんたちってどっから依頼受けるんすか?」
「然るべきところ」
「うわ誤魔化した」
「正直俺もそこまで詳しくは知らないんだよ、本当に」
世の仕組みは入り組んでいて厄介だ。下手に踏み込めば面倒ごとになる。場合によっては何が敵になってしまうかも分からない。他人の領分に踏み込むには、それ相応の覚悟が必要になる。踏み込まない、というのも、処世術のひとつだ。
――嫌な大人の考え方だな、と。浮かんだ言葉に、溜息ひとつ。
「ま、俺らは俺らの仕事をしないとね」
「はーい」