Cryptic Entity - 閑話05
初詣の話
新年早々、恭から「ごめんなさいれおれおが体調崩しちゃって……」ということもあり、人が少なくなってからの方がいいだろうということになって、初詣に来たのは三が日が終わった後の話。さすがに人は減ったものの、それでもちらほらと参拝している人を横目に、本殿へ。
二礼二拍手。いつも通りの作法で、律は手を合わせて目を閉じる。
(明けましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年も何卒よろしくお願いいたします)
目を開けて。一礼して視線を上げると、そのまま本殿の前から下がる。
思えば、いつの頃からか所謂『神頼み』をしなくなったな、とぼんやり考える。その場にいる存在を知っているから、ということもあるが、それでも学生だった頃は何かしら願うこともあったような気がするのだが。
今だって、願うことがないわけではない。桜が平穏無事に1年を過ごせますように。恭の身に何も起きませんように。生まれたばかりの娘が、元気に成長しますように。挙げていけばキリがないくらいに願い事はあって、それでも、それを『神様』に願うのは、どうにも少し違う気がして。
神様という存在は、見守るもの。人の世界に、干渉はしない。
干渉してしまった時点で、神は領域を踏み越えてしまうから。
だから願わない。叶えることのできない願いを届けるのは、どこか申し訳ない気がして。そんなふうに考えなくても良いと言われてしまうのだろうし、きっともっと気楽に考えていいものだ。八百万の神々のいる国に生まれ育っているのだから、そこまで深く考える必要もないことは分かっている。
それでも――それでも。こんな生業で生きている人間だからこそ、考えてしまうことも山のようにあって。
振り返ると、先に参拝を終えた柳川家の面々が社務所の前で何やらわいわいとしていた。神社の面々とは気の知れた仲だ、新年早々いつも通りの光景でもある。
「何か買うの?」
「あっ律さん! 健康長寿買うべき!」
「え、俺?」
「私も茅嶋さんにはそれが必要だと思います……」
「……真剣に言われた……」
覗き込めば、やれ厄除けだ交通安全だと書かれたお守りの数々。俺は買わないよ、と笑いながらも、考えてしまうのは家で待っている桜と愛娘のこと。家内安全くらいは買ってもいいかもしれない。
「まあでも龍神様だしなあ。金運にするか」
「これ以上稼ぐの!?」
「冗談ですけども」
「もー! あっなんだっけ、矢! はまぐりみたいな名前の」
「破魔矢ね? 新年早々罰当たりか?」
「それそれ。それは?」
「まあ、そうだねえ……。あ、ねえねえなかみーどこいる? ちょっとお宮参りとかの相談したくて」
これ以上ここにいると柳川家の押し売りを受けて何かしら買うことになりそうだと判断して、神主の名前を出せばあちらにいますよ、と場所を教えてくれる。じゃあ後で、と手を振ってそちらへ足を向ければ、数瞬置いて逃げられた!? と叫ぶ恭の声が後ろから聞こえて、思わず笑ってしまった。
――この後、別れ際に恭が買った健康長寿のお守りを押し付けられ、そのままそれを桜に渡すことになるのは、数時間後の話。