Cryptic Entity - 閑話04
クリスマスの話
「ほら、つんつんして」
「つんつん? つんつんー」
「……、……いやひとであそぶな……?」
「おきた!」
「起きたねー。おはようっす、律さん」
「……おはよう、きょーくん、ういなちゃん……」
きゃっきゃと喜ぶ憂生に毒気を抜かれつつ、律は体を起こした。どうやらリビングで仕事を片付けている途中で寝落ちしていたらしい。ご丁寧に布団が掛けられていたので、これは椿だろうか。仕事に行く前に見つけて、掛けてくれたのかもしれない。呆れた顔で笑う恭も、にこにこしている憂生もアウターを羽織っているので、先ほど茅嶋家に来たところなのだろう。
「何時に寝たんすかー。桜っちに面会できるの昼からだからってまた不規則生活してるなこのひと」
「……いやまだ暗かったよたぶん?」
「最近朝は7時頃まで暗いって知ってます?」
「あー……そうだった……」
桜が家にいる間は、きちんと規則正しい生活はできていた。何より朝方まで仕事をする生活をしていると、桜の方が気にして声を掛けてくれる。だがしかし、現在産後で入院中の桜は家にいない。椿も年末進行で仕事がばたばたしているという話は聞いている。となれば必然のように、あっという間に生活のリズムは崩れていくのだった。残念ながら、掃いて捨ててもまだまだ仕事はあるので。
体を起こして、伸びひとつ。こき、と骨が音を立てる。相当凝り固まっているので、これは要反省だ。せめて寝るのであれば、自室のベッドに辿り着いていたかった。 コーヒーでも飲みながら、とリビングで仕事を始めたのが原因だ。
「二人でどうしたの?」
「おさんぽ!」
「そっか、お散歩か」
「律さん今晩うち来ませんか? ってゆりっぺからお誘いっす、クリスマスだし。イヴっすけど」
「あー……」
一緒にごはんでもどうかというお誘いだ。机の上の書類の束に目を向ける。桜が退院するまでには片付けておきたい。年内には退院するという話なので、できることなら今日明日中には。帰ってきたらもう仕事どころではなくなることは分かっている話だからだ。
「……うーん……仕事……」
「山積みなのは分かってるっすけど。息抜きも大事」
「それはそう……」
「……? だめ……?」
「うっ……分かった何とかする……」
憂生を連れてきているのは卑怯だ。寂しそうな顔をされると、どうしても甘くなる。やったー、と喜ぶ父娘に、苦笑混じりに大きな溜め息ひとつ。根を詰めているよりは、気分転換した方がいいのは確かだ。あれもこれもと考えていると頭の中が煮詰まってしまう。
「あー……そうだ。年始初詣行くの俺だけだと思うから、柳川家とご一緒してもいい?」
「そっか、桜っちまだ初詣の頃はしんどいっすね。一緒行きましょ行きましょ。桜っちはお宮参りっすかねー。律さんとこもなかみーの神社でする?」
「そりゃまあねえ。神社関係はもうなかみーに全部頼む。ルキくんじゃなくてなかみーでお願いしますをする」
「えーるっきーかわいそう」
「あはは。で、今日何時頃の予定? それで面会時間考えるよ」
「面会時間17時までっすよね? その後で全然だいじょぶ! 病院まで迎えに行くっす」
「おっけ。じゃあ憂生ちゃん、一緒にクリスマスしようね」
「うんっ」
「じゃあ帰ろっか、ういうい」
「はーい」
よいしょ、と軽々憂生を抱き上げる恭の姿に、目を細める。大きくなったものだなと思うと同時、生まれたばかりの我が子もこうして大きくなっていくのだろうなと考えながら、帰っていく二人を見送る。
またねえ、と手を振る憂生に手を振り返して、頭の中で今日のスケジュールを立てて。
「……あー、クリスマスプレゼント……」
完全に忘れていたイベントに、またひとつ溜め息がこぼれた。