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Re;Tri ― Ruler

14 烈歌と土産

 ニーナ=レンフィールドは諜報部ジェファ隊に所属している二等戦闘官である。
 気さくで明るい人柄から、それなりに交友関係は広い。上司からも部下からも信頼を得て、割り振られた仕事はきっちりとこなしている。戦闘官として戦っている印象が強いのか、その人柄のせいなのか、彼女の所属の特性は忘れられがちだ。

「今回は期間限定の商品多くて楽しかったなー。乳酪肉巻持って帰りたかったんだけど、ああいうのは冷えちゃうと美味しくなくなるしその場で食べるのがいいからなかなか難しいよね」
「はあ」

 ザラマンド南部の宿泊施設にて。
 海上周遊都市サイレンへの出張ついで、お土産とばかりに大量に買ってきたらしい軽食や菓子類を机の上に並べながら、ニーナは溜め息を吐く。付き合わされているヴァルラインは生返事だ。出張が終わったので抑止庁に帰って書類をまとめようと思っていたらニーナに捕まった、と言った方が正しい。仕方なく携帯用端末で仕事をしているので、話はほとんど聞く気がない。

「ちょっと、聞いてる?ヴァン。これねー、期間限定の苺味の弾泡穀、こっちは紅茶味」
「結局普通に塩味が一番美味しいんじゃないの?」
「期間限定の魅力を分からない子だなー全く。まあそう言うと思って塩味も買ったんだけどね。食べる?」
「遠慮しとこうかな。それ全部ニーナの『商売道具』でしょ」
「ふふ、引っ掛からないか。遊撃部ゼーレ隊の情報とか抜きたいなー」
「ゼーレ隊長に直接聞けば? ていうか僕の所属はこれでも諜報なんだけど何で遊撃の話?」
「相手がヴァンだから? 全くつれない男だなあ」

 やれやれとわざとらしく肩を竦めてみせるニーナに、ヴァルラインは苦笑う。
 ニーナは抑止庁内でサイレンが隙だと公言している。出張の度に様々なものを持ち帰ってくるし、内務班の人間とお土産を広げて女子会だなどと言いながらわいわいとお茶をしている光景もよく見かける。仲がよさそうで微笑ましいものだ――表面上だけならば。ヴァルラインとしてはその光景の『意味』を知っているので、どうにも巻き込まれたくはない。
 それがニーナ=レンフィールドという女の手口であることを、よく知っている。
 戦闘官であっても、彼女の所属は飽くまでも『諜報』部隊だ。気さくで明るくて、よく話をしてくれる二等戦闘官。あの手この手でゆっくりと時間を掛けて相手の警戒心を解いていき、信用させ、信頼させ、情報を引き出す。情報の糸口など本当に僅かなもので構わない。とっかかりさえあれば、情報はいくらでも調べ上げることができる。

「ほんと、『ここだけの話なんだけど』っていうのって何で言いたくなっちゃうんだろうねえ、美味しいもの食べて楽しい気持ちになると口って軽くなるよねえ」
「女は怖い……敵に回したくない……」
「ヴァンに言われたくないんだけどその台詞」
「ところで乳酪肉巻の件なんだけど、持って帰ってきて温めたら済むんじゃないの?」
「ザラマンドの火力でやったら丸焦げじゃないの、私火力調整するの下手だし。ていうかあれはとろっとろだから美味しい、間違いない」
「とろける乳酪かあ……今度食べてみようかなあ……。お腹空いてきちゃった、ニーナ、やっぱり塩味の弾泡穀欲しいなー」
「毎度ありー!」

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