神僕engage

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「最近俺めっちゃ寝てる気がする」
「そうですか?」

 ぼんやりとした俺の独り言に、メイが反応した。きょとんとした顔に、そう、と俺は頷く。
 なんか気がついたらめっちゃ時間経ってない?っていうか、行事ごとには意識があるんだけど、気がついたら次の行事になってるっていうか。年明けてから何だかんだとばたばたしてるから、割と疲れているのかもしれない。神様ってやること多いんだなあ、というシンプルな感想。

「よく働いてらっしゃるので。おやすみするのも大切ですよ」
「んー、でも、なんか不思議」
「何がです?」
「前はこんな、真面目にちゃんとやろー、とか、なかったなと思って……」

 もうあんまり思い出せないけど、でも、仕事は好きじゃなかった。何も楽しくなかったし、何でこんなことしなきゃ生きていけないんだろうなあって思ってた。お金が無いと生きていけない、働かないとお金は手に入らない。でも働きたくない。仕事することの何が楽しいのか、さっぱり分からなかった。
 今は、何だろう。どうしてこんなにちゃんとやらなきゃ、とか思ってるんだろう。多分最初は、まあどうせ神社から出れないし、他にやることもないし。あとは本当に神社のことなんて知らなかったから、知らないことを知るのが楽しかったのかもしれない。今もまだ、知らないことや分からないことだらけだ。そのうち慣れて飽きるのかなあ。まだ、その想像はつかない。

「あるじさまはやれば出来る子だったんですね」
「やらないやれば出来る子はね、出来ない子っていうんだよ」
「私も有明も、あるじさまが頑張ってくれて嬉しいですよ? これからもよろしくお願いします」
「がんばるー……アケもメイもちゃんと教えてくれるし、褒めてくれるし、やる気出るのもあんのかもな」

 二人とも、出来て当たり前、みたいな顔はしない。何もかも初めてだって分かってくれてるから、ちゃんと出来てるときは絶対褒めてくれる。ああ、うん、だからきっと、それが心地良い。
 二人に迷惑をかけない『終宵』でいたいなあ、と思いながら。ふと思い出したのは熾葵ちゃんが言っていたこと。
 ここは夜明けを司る神社。
 終わらせて、始まる場所。
 いつか俺も、前の『終宵』が熾葵ちゃんに出会ってその力を終わらせたように、誰かの何かを終わらせる日が来るんだろうか。そんなこと、どうやってやるのか分からないけど。『終宵』としての俺にある『神様』の力――それは、何なんだろう。
 使えるようになりたいな、とは、あまり思わない。俺は『終宵』のことをよく知らないから、それがどんなものなのかがよく分からない。分からないものは、怖いのだ。こんなんになっても。

「さっ、物思いに耽っている暇があったらお仕事です」
「すぱるたぁ……」
「ふふっ、今日も頑張りましょうね、あるじさま」
「おー」

 まあ、いいか。
 そこで思考に蓋をして。そして俺はいつも通りに。