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三が日で大分疲れたんだろう、意識がふわふわする、と思うことが多くなった。慣れればそんなこともなくなりますよ、とメイは言っていたけど、さていつになれば慣れるやら?神様って意外と大変なんだなあ、というのが、初の大仕事中の俺の感想だ。
参拝客が大量だったこの3日間、俺は本殿から出ることはしなかった。本殿にいるのが一番参拝客が見えるというのもあるけれど、本殿にいるのが一番『落ち着く』からだ。アケが言うには本殿は終宵の御神体が安置されてる場所だから、その近くにいるのが一番安定するとのことだった。
「そもそも神様って、常にこの世にいるもんじゃないし」
「そうなの?」
「うん。まああるじの場合は常にいることになるけど、それでも微睡んでたら数日経ったとかしょっちゅうあるだろ」
「あー……言われてみれば」
社務所のカレンダーの月が替わってたりとか、ちょこちょこある。そういうもんなのかと思ってたけど、結局のところそれは俺が一時的にこの世を離れて、違うところで療養中、みたいな扱いになるらしい。俺としてはそういう意識はないんだけど、まあ、アケが言うならそうなんだろう。
という訳で。下手に微睡むと初詣期間に神社に神様不在ってことになってしまうので、ふわふわする意識を必死に繋ぎ止めながら、次から次に来る参拝客の『声』を聞いていたのだった。
そして、4日目。
「……あ、熾葵ちゃん」
人もまばらになってきた、4日目の昼過ぎ。ひょっこりと現れた熾葵ちゃんが、本殿に一礼する。今日は制服じゃない。明るい色合いのワンピースに編み上げブーツ、その上にコートを羽織った姿は、うーん、やっぱ女の子、って感じ。そのままお賽銭を投げて二礼、二拍手。
(明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします)
聞こえた声に、少し笑う。そのまま一礼して、ちらりと俺の方に目をやる。うん、ちょっと話したいな。立ち上がると分かってくれたんだろう、少し困った顔をしながら、以前話したところに移動していくのが見えた。すぐに追いかければ、壁に寄りかかって待っていた熾葵ちゃんが俺を見る。
「あけおめの挨拶だけでいいの、受験生」
「終宵に願ったところで合格するわけじゃないし……、……しんどそう。大丈夫?」
「うーん、結構きつい」
「でしょうね」
ぼそぼそとした声での会話。俺の声が熾葵ちゃん以外に聞こえる訳じゃないのに、つい一緒にぼそぼそ喋ってしまうのは仕方ない。つられてる。
「心配してくれる熾葵ちゃん優しいな」
「……心配したところで、私に何が出来る訳じゃないし。私は人間なんだから」
「うん、それはまあ。でも嬉しい」
「ならよかった」
ふ、と笑う熾葵ちゃんの表情は穏やかだ。何がどうよかったのかは分からないものの、表情が柔らかいとこちらとしては嬉しい。
「受験勉強に忙しいのに顔見せてくれてありがと。何かほっとした」
「まだ会うの2回目なのに?」
「んー、何だろ。前の終宵の感覚があんのかもな。熾葵ちゃんは大丈夫な人だっていう」
「あー……流石に私は『代替わり』目の当たりにするの初めてだから、その辺は分かんないな」
「アケとメイにはあの後会った?」
「有明も黎明も私のこと避けてると思う。今日も何処行ってんのあの子たち?」
む、とした声で熾葵ちゃんは呟く。そういえば、今朝方までは神社にいたはずの2人の姿はない。俺もちょっとぼんやりしてたから、どこそこ行ってくる、っていうの聞きそびれてる。
別の参拝客が手を叩く音に我に返る。俺は俺の仕事をしないといけない。今日はそろそろタイムリミットか。気付いたんだろう、熾葵ちゃんが壁から背を離して。
「受験終わったらまた来るね」
「もうすぐセンター?頑張ってな」
「今は共通テストっていうんですー」
そう言って笑った熾葵ちゃんの表情は、とても眩しかった。