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09
年が明けて、まあどこにそんなに隠れてたんだ?って思ってしまうくらいには参拝客が増えた。初詣に行かなきゃ、ってお前ら普段神様なんて信じてないでしょうが、という感覚は拭えない。とはいえ俺も人間だったときは初詣くらいはふらふら行っていた気がするので、それは日本人の習性のようなものなのかもしれなかった。
「……あたま、くらくらする、」
「集中しすぎだよあるじ。真面目だなあ」
「初めての初詣ですから、加減も分からないでしょう。もっと肩の力を抜いて大丈夫ですよ」
「うん……」
ひっきりなしに、誰かの声が次々に届く。
家族全員健康に過ごせますように。彼女ができますように。プロポーズが成功しますように。希望の学校に合格しますように。今年こそは誰々と縁が切れますように。転職できますように。戦隊ヒーローになれますように。誰々のコンサートに行けますように。誰々が彼氏や彼女と別れますように。宝くじが当たりますように。子供が無事に産まれますように。などなど。
ほっこりするお願い事から、そんなこと俺に言われてもどうしろと?って思うお願い事まで様々だ。いや、どんなお願いごとだって俺に言われてもどうすることもできないんだけど。聞きたくなくても聞こえてしまうお願いごとがぐるぐると頭の中を回って蓄積されていく。
ふらふらする中で新春の祈祷だとか何とかでまたかしこみかしこみ言われるし。敬う割に図々しいんじゃね、と思い始めたからこれはだめだ。疲れてる。
「これお願いごと聞くのカットできねえの……」
「あるじさまが頑張ればできるかもしれないですねえ」
「何でメイはそんな他人事なの」
「俺らには結局、あるじがどんだけしんどいかは分かんねえもん。しんどいんだろうなとは思うけど。幾らでも愚痴は聞くからさ、頑張ってくれ」
「少しの間忙しいですが、まあでも元旦が一番しんどいので、あとは慣れです」
頑張れ!と声を揃えるアケとメイに特大の溜め息を返しておく。頑張れって言われてもな……?いや、まあ、頑張るしかないっていうことは分かってるんだ。
アケとメイは神様じゃない。飽くまで『神使』。俺の代役が務まるわけじゃあ、ないのだ。これは、俺にしかできないこと。
この人の心の声が聞こえる力の調整、どうやってやるんだろ。調整ができて聞こえなくなったところで、『見守る』仕事がなくなるわけじゃあないから忙しいのは変わらないんだけど。それでもちょっと楽になる気がするんだよなあ。ていうか有象無象の願い事は別に見守る必要もなくない?どうしても切実な願い事なら見守ってあげたいんだけどさ。そこに私利私欲しかないのなら、やっぱり俺だって勝手にやってろ、になるじゃん。
――ああ、でも。この有象無象を通り抜けて真っ直ぐに俺に届く願いがあるとしたら。それはきっと、俺の『仕事』なのだろう。