Trailing Dread - 閑話03

多忙の話

 日本にいようと海外にいようと、仕事の内容が大きく変わるわけではない。規模や程度の差はあれ――そして各国の習慣の差はあれ、『彼岸』の者を祓い、諭し、話し、『彼方』の者たちとやり合う。事が済めば依頼主に報告し、次の仕事へというルーティンが続いていく。

「……何か……何かやったら仕事多くないすか……」
「残念ながら多いですね……いろんな事象に引きずられて、何か余計なものいろいろ出てきちゃったっぽい……」
「あー……もう出国からやばかったっすもんね……」
「無事に帰国できますように! って感じ」

 負の感情は、様々な事象を引き起こす。悪いものを引き寄せ、良くないものを引き寄せ、渦巻いていく。ひっきりなしに仕事が増えてしまえば、体が保たない。内容は取捨し、必要に応じて割り振りもしているが、それでも母数が増えている。どうしても、律が引き受けなければならない数も増えていく。
 どうにか1、2か月に一度くらいは帰国したいものだが、状況が許してくれるかどうかは難しい。嘆いていても仕方がないので、律としては淡々と目の前の仕事を片付けていくだけだ。

「やっぱ人手増やさないとなあ……」
「らっちっちが手伝ってくれるようになったから、日本での仕事はちょい楽になったっすもんね」
「まあ、恭くんの現場数減らしてあげられないのが申し訳ないところではあるんだけどさ」
「俺はその辺は全然大丈夫っすよ。難しいことはできないから、そっちのが大変そうだなって」
「あはは。ま、そういうのは俺の仕事です。慣れてるしね」

 面倒な交渉も、管理も、報告も。今となっては芹も手伝ってくれるようになり、少しずつだが桜も復帰し始めてくれている。育児で大変なのだからという話はしたが、芹、そして伊鶴がいてくれるのだから大丈夫だと言って聞かなかった。無理はしないという約束は、「それは律様もですよ」と釘を刺されている。
 ――そんなことを言われても、無理をしないといけないのがつらいところで。

「あ! そういや前来てた二人組ってどうなったんすか? えーと……誰だっけ」
「お。恭くんちゃんと覚えてたんだ」
「そりゃあまあ。なんか……なんか……もぐらみたいな名前の……」
「モルテンとヘルトね」
「それだ!」
「リノさんが随分振り回してくれてたけど、そろそろ飽きたって言われたし、そっちの対応も考えないといけないねえ……」

 モルテンとヘルトに課したリノの捜索という仕事は、時間稼ぎであると同時に彼らの実力を測るものだ。有用であることを証明し、対価として労働力を貸してもらうという約束ではあるので、人手を増やすことはできる。だがしかし、気になるのはリノから聞いた話だ。
 モルテンに憑いている『カミ』――不完全なまま、モルテンの『存在』を喰らうことで存在するもの。
 今回の海外出張では、彼らの対応もある程度必要だろうと考えている。彼らの依頼を引き受ける様子を見せないまま、彼らの力を借りる訳にはいかない。そもそも既に1年先延ばしにしているのだ、これ以上の時間稼ぎも難しい。仕事が増えているのは事実だが、今現在の多忙の要因のひとつは、なるべく多くのことを早めに片付けるためだ。イレギュラーの発生には備えておかなければならない。
 ヘルトの姉を、取り戻す。恐らくかなり難易度が高いであろう依頼を、どう処理するべきか。考えていると億劫になってしまうので、どうしても意識から外してしまいたくなる。だがそうも言ってはいられないので、情報をまとめることは必要だ。再会したときに彼らからどれだけ話を聞き出せるか、という問題もある。
 知らなければ、対応はできない。

「うー……とりあえずおなかすいた! ごはん行きましょうよ」
「そうだね。一休みしてまた仕事だな……」
「次どこ行くんだっけ」
「隣町の廃墟」
「あー、夜に行きたくないやつー」
「残念ながら夜行かないと意味がないんですよ……」