Trailing Dread - 閑話01

密談の話

 リノから連絡が届いたのは、今後のスケジュールがおおよそ固まった後のこと。

『飽きたから見つかってみようかと』
「はっきり言うじゃないですか」
『まあ、彼らの実力は大体見えたから。これ以上遊ぶこともないかな、と』

 興味が失せたのだということが、電話の向こうから聞こえる声の調子でよく分かる。寧ろ、これだけ長期間、よく振り回してくれたと考えるべきだろう。下手をすれば2、3日で飽きたと言いかねないのが、リノ=プリドという『化生』だ。
 ――とはいえ、だ。ヘルト=ヴィーメルという『サイコジャッカー』、そしてモルテン=ニーグレーンという『シャーマン』。この二人は、それだけリノの興味を惹くことができていた、ということになる。

「これは一応聞くんですけど。彼らについて、俺がもらえる情報ってあったりします?」
『あー……あの『シャーマン』に憑いてる『カミ』、めんどくさい』
「めんどくさい」
『冥界関連か何かかとも思ったのだけれど、少し違う気はするね。上手く見えないというよりは、アレ自体が不完全なのだろう。モルテンの痕跡を喰らって何とか存在している、と言った方が正しいかな』
「……痕跡を喰らう……? 存在を喰ってる、みたいな……?」
『察しがいい。そういうことだよ』

 リノの肯定に、律は眉を寄せる。どちらにしろ、良い知らせとは言えない。だが、モルテンのことを調べても何も出てこなかった理由が、そう言われてはっきりした。
 存在しているまま、存在を喰らわれる。それを代償として、モルテンはあの『口』の存在を借りているのだろう。記憶には留まっても、記録としては残らない。或いは記憶にさえ留まることのない程に喰らわれたとき、あの『口』は本来の姿を、力を取り戻すのだろうか。その辺りは、次に会ったときにモルテンに問うてみた方が良いだろう。答えをはぐらかされる可能性は高いが。

「……分かりました。ちなみに他には?」
『あはは。自分でそれなりに調べはついているんだろう? リツ。俺は鬼ごっこをしていただけだからね。そこまで多くの情報はないさ』
「それは残念。ああ、でも、何か思い出したら教えていただけると有難いです」
『オーケー。じゃあ、そういうことで。大変だろうけど、頑張って』

 そこでぷつり、と電話は切れた。これ以上は話す気もないらしい。
 恐らくだが、リノは『離さない方が楽しい』と判断したのだろう。今後面白がって状況を追ってくる可能性は、充分にある。そのときはまた力を貸してくれるのか、或いは見ているだけになるのか。それは今後の動向次第、というところだろうか。
 さてどうしたものか、と律は手の中のスマートフォンを見つめる。リノの様子から考えて、近いうちにモルテンとヘルトから連絡が入るだろう。となれば、今後必要な対応の中にヘルトからの依頼が盛り込まれる。
 かの集落の調査。――果たしてそこに、何があるのか。

「……またひどいことにならなきゃいいけど……」

 懸念してしまうのは、恭のメンタル面だ。ようやっと落ち着きを取り戻したところの現状に、また大きく揺さぶりをかけてしまうことになりかねない。ただでさえ先日の一件もある。その辺りのケアにも考慮しながら動かなければならないだろう。
 どちらにしろ、仕事は溜まっている。すぐにあの二人の依頼をこなすために動けるわけでもない。適宜対処していくのは、いつものことだ。
 ひとまず、おおよそ固まったスケジュールにイレギュラーが発生する可能性が高いことを、芹には伝えておかなければならない。何か起きた場合の対処も含め、再度考え直さなければならないことは山のようにある。

「……めんどくさー……」

 無意識にこぼしてしまった本音に苦笑いしつつ。律はひとまず、芹宛のメッセージを打ち始めたのだった。