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26 烈歌と白兎
ニーナ=レンフィールドは諜報部隊において、戦闘官の歌唱士という立場である。
明るい快活な性格で、面倒見も良い。納得のいかないことがあれば上官に楯突いてでも異議を通す。ひとたび戦闘となれば炎の攻撃魔術を主軸に最前線で戦うことも多く、他部隊からもそれなりの信頼を得ている。現在は二等戦闘官として班を持ち、数名後輩の面倒も見ているのが彼女という人間だ。
「見るからに諜報の人間ではなさそうというのが、ニーナの意地の悪いところよね」
「えー、私別に諜報部隊ってこと隠してないし意地悪した覚えもないけど?」
本日の井戸端会議は遊撃部隊の執務室にて。
部隊の人間は合同訓練のため出払っている。こういう場合、ランドルフは書類仕事のために執務室に残っていることが多い。或いは上官が手が付けられない状態になった時の為の保険でもある。訓練で消耗することはほとんどないが、こと上官を相手にするとなると万全の状態であった方が対応しやすいので。そのことをよく知っているニーナが遊びに来た、という構図だ。
とんとん、と束になった始末書の書類を整えるランドルフの向こう側、ほら、とニーナは黒い戦闘官の制服、彼女の場合は右腕の部分にあしらわれているジェファ隊の隊章を指差す。そう、彼女は何も隠してはいない――嘘も吐いていない。
「人の懐に潜り込んで情報を引き摺り出してるだけ」
「言い方……」
「内務班に潜り込んでるのとか、訓練されてる筈が割とあっさりぼろ出すの面白いなとは思ってる」
「まあ相手が諜報部隊だと分かっててぼろ出すのは最早素人じゃないかしらと思うことは私もあるけれど」
「ランもぼろ出してくれていいのに」
「あら、何の?」
「最近のヴァンが誰なのかとか」
「ヴァルラインはヴァルラインでしょうに」
「まあそうなんですけどね?」
ふふ、と笑いながらいいんですけど、と呟くニーナには確信があるだろうが、ランドルフとしてはその手に乗るつもりはない。ヴァルライン=エアリーはジェファ隊所属の二等補助官であり、ランドルフとは関係がないからだ。――何より、隊長が知らないことはないので。その部下であるニーナに隊長から話していないなら、別部隊の副隊長であるランドルフから話すことはない。
溜息ひとつ、ニーナが葡萄の果汁飲料に口をつけるのを横目に、ランドルフは次の書類を取り出した。先日起きた事件の報告書と損害の見積書、付随する修理や新規購入の手続き等。書類の多さはいつものことなのでだんだんと感覚が麻痺しているが、いい加減減らして欲しいのが本音である。
「うちの部隊の情報何か引き抜くなら、書類の量が馬鹿って言っておいて」
「……残念ながらみんな知ってると思うわそれは……」