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神僕engage

14

 季節は知らない間に目まぐるしく変わっていく。
 神社って意外と年中色々あるんだなあ、なんて、今まで知らなかったことをぼんやりと。年末年始の大忙しが終わったところで二月は節分、三月は雛祭り、四月は春祭り、五月は端午の節句と来て、六月は大祓とかいうイベントがあるらしい。いや忙しいな。俺が何か準備とかするわけじゃないけど、社務所の人たちは忙しく走り回っている。
 ――この四月から新しく社務所のメンバーに加わった、熾葵ちゃんも。
 年が明けて初詣に来た以降、俺は熾葵ちゃんと話せていない。というよりも、多分、熾葵ちゃんに俺が見えなくなった。そんな急に見えなくなるもんなの? と思うけど、どうやら熾葵ちゃんには彼氏ができたみたいで。社務所での話を立ち聞きしてしまい大変申し訳ないんだけど、そう、彼氏。

「これは……あの……下世話な話してもいい?」
「煩悩まみれじゃんあるじ。熾葵の力がそういうので解決するなら、アイツ悩んでなかったと思うし。別の原因だろ」
「別の原因って何さ」
「あるじさま拗ねてらっしゃいますよね。熾葵と話せないのがそんなに寂しいですか?」
「そういうわけじゃねえけどさあ……」

 境内でだらだらしながら、アケとメイと三人、くだらない話。
 俺がこうなってから、初めて俺のことが見えて話せた相手が、熾葵ちゃんだったから。そう考えるとメイの言う「寂しい」というのは、正確に的を得ているのだろう。拗ねているつもりはないけれど、何だか悔しい。
 けれど今の俺は神様だから。終宵という存在だから。人には見えなくて当たり前で、人と話せなくて当たり前だ。向こうの声は聞こえるけれど、こちらの声は届かない。そういう存在だ。
 別に俺にはアケとメイがいるし、二人とは全然普通に話せる。だから、別に一人ぼっちで寂しいとかじゃない。多分俺は、彼女が「俺が見えなくなったこと」に気が付いてないことが気になって。

 ――終宵、どこ行ったんだろう。

 ちょっと寂しそうな声でそんなことを呟く熾葵ちゃんの声を、聞いてしまっているから。俺は目の前にいるんだけどなあ。
 いずれ彼女も、俺が見えなくなったことに気付く日が来るんだろうか。もしかしたら俺と話していたことなんて忘れてしまうかもしれない。それはちょっと嫌だなあ、と思ったところで、それはもう俺にどうにかできるものではないのだろう。大体熾葵ちゃんの力がどうこうっていうのは前の終宵との話で、俺と何かあったわけじゃない。今の俺がとやかくどうこう言うことじゃあないのだ。

「……そういやアケもメイも、いっつも熾葵ちゃんいるといなかったのに、熾葵ちゃんが俺のこと見えなくなってからは普通にいるよな」
「そうですか? たまたまじゃないです? 大体今の彼女、結構ここにいますしね」
「頑張って働いてるからなあ。学業と両立も大変だろうに、感心感心」
「何か姿見られたら困ることでもあったりした?」
「気のせいですよ」

 ねえ、とアケとメイが顔を見合わせて笑う。……コイツら、仮にもあるじに向かって隠し事か? まあ問い詰めたところで、なので、溜め息ひとつでその話は流してしまうことにして。
 階段を上ってくる人の気配を感じて、俺はいそいそと本殿に戻ったのだった。

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