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03 『雪鴉』と食事
食事を摂取する、という行動は、生命活動を維持させるという観点から非常に重要なものである、と理解している。また、その『食事』も道具と成り得ることから、『屋敷』の面子は全員その技術を習得している――のだが。
「……何で毎度スークが作る飯は暗黒物質なんだ?」
「味だけはいいんだけどねー」
「文句があるなラ、食べなくていいヨ?」
口々に文句を言う『浮草』と『万華鏡』の前にあるのは、皿に盛られた黒い塊――『雪鴉』が用意した食事である。一見、とてもではないが食べられそうにはない見た目のそれ。何がどうなってそうなるのかは分からないのだが、味は絶品だ。
「大体お前サンたチ、彩りとか気にして作ったところデ、がつがつ食べて終わりでしょウ」
「まあそうなんだけど、こう、見た目で食欲を減衰させるのは如何なものかと思うぞ?」
「ていうかスークが料理してるところいっそ見てみたい気がする、どこの工程でこうなっちゃうの?」
「それは企業秘密だヨ」
「完全に故意だって自白してんじゃねえか」
け、と笑って、『浮草』は真っ黒なそれを口へと運ぶ。外側の固さに眉をしかめ、半分に割って一口分を千切ってから口の中へと放り込めば、柔らかな感触とほんのりとした甘さが舌を満たしてくれる。見た目がこれでなければ最高なのだが、その辺りは『雪鴉』の趣味だと思って諦めるしかない。何より彼女は別段普通に料理ができないわけではないのだ。
同じように黙々と食べ進めながら、不意に思い出したようにあ、と『万華鏡』が声を上げる。
「そういえば今度からメイダが『屋敷』の中のことやるようになるって?」
「ああ、そんな話だったネ。どうにも、『あの人』には見切りをつけられたと聞いたけド」
「本当に見切りをつけられてるなら『顔無』の餌食だろうさ。何かしら理由があるんだろう、俺様たちにゃあ関係ない話だね」
「エルだったら知ってるかもしれないけど。ま、はぐらかされるかねえ」
「手放しやしないだろうサ。彼女の能力は惜しいだろうかラ」
「実力が伴ってねえならお荷物にしかならねえさ」
冷ややかな『浮草』の声に、『雪鴉』は笑う。一人『お荷物』がいるだけで、彼らを襲う危険性は跳ね上がる。だからこそ、『屋敷』から出さない形で考えられていることは三人とて想像がつくことではあった。問題は、何故彼女がそのような扱いをされたのか、だ。
「……んっふふふ」
「どうしたペッシェ」
「ん-ん、いや、我らが『死神』サマが前言ってたことを思い出しちゃって」
「何サ」
「――遊戯の『手札』は、『5枚』で充分すぎるんだって」
「え?」
「じゃ、ゴチソーサマ」
ごくん。最後の一口を飲み込んで、『万華鏡』は席を立つ。機嫌よく鼻歌を歌いながら去っていく背中を眺め、『雪鴉』と『浮草』は顔を見合わせた。