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Re;Tri ― Apple

01 『顔無』と『万華鏡』

「……全く、お前は気味が悪い」

 男は困惑したように呟いて、手に持っていた何かの器具を放り投げた。彼――『顔無』にはそれが何なのかを認識することはできない。とうに両の眼は抉り取られ、視界は奪われている。流れ落ちていた筈の血は、いつの間にか凝り固まって、眼球があった場所に収まっている。
 からん、からん。響く金属音に、彼の口許が弧を描く。

「好きにしろって言ったろ? 目玉がなくなろうと、四肢をもがれようと、全ての爪を剥がされようと、舌を抜かれようと、薬漬けにされようと、内臓を引き摺り出されようと、頭から煮え湯にぶち込まれようと、俺は何も『知らない』からお前に言うことなんて何もねえよ」
「普通本当に何も知らないなら、嘘八百並べ立ててでも許しを乞うもんだ。なのにお前ときたら、何をしてもへらへら笑いやがって。『大天災ジーニアス』のところで苦痛を感じない肉体にでも改造してもらったのか?」
「おお、そりゃあいいねえ。できるものなら頼んでみたいもんだ」

 軽口を叩きながら、『顔無』はゆっくりと神経を尖らせた。生憎、拷問など受け慣れている。いっそ殺された方が良いと思ってしまう程の苦痛は、この程度では味わえない。
 大した量ではないとはいえ、自白剤の類を投与されてはいるので、頭はくらくらと揺れているが――そして別段『顔無』自身には薬に耐性があるわけではないので、実際に薬漬けにされてしまえば末路は見えているが――この程度であればまだ、問題はない。

「……舌を抜くと何も喋れなくなるからと思っていたが、いいか、一度殺せば」
「舌を抜いても殺されても、俺は『知らない』っつってんのに、無駄な労力をかけるよなあ。拷問ってのはこの世で一番時間の無駄になる行為だとは思わないか」
「ならお前ならどうやって情報を吐かせる?」
「んなもんはな、自分で徹底的に調べ上げんだよ。手っ取り早く他人の口から情報を得ようなんざ、素人にも程がある」

 ははは、と心底楽しそうな笑い声が部屋に響き渡る。視界に見えずとも、目の前にいるであろう男から滲み出る怒りを感じる。怒ればいい。そもそも、こういった行為を行う相手というのは、大抵が倒錯した嗜好を持っている。目的を言い訳にして、己の欲求を満たしているだけだ。欲しい情報を持っているかどうかなど、この行為には付随していない。

「ない知恵絞って俺が悲鳴上げて泣き叫んで屈服して許しを乞うまで、お得意の拷問を続けてみればいいだろ? ド素人」
「お前っ……」
「まあその前に、お前が死ぬ」
「な、」
「返せ『顔無ノウェルズ』、丁重にな」
「は? ……ひっ!?」

 空気を切り裂いた絶叫は、『顔無』の口から溢れたものではない。目の前の男の方だ。やれやれ、と息を吐く『顔無』は、隣に人の気配を感じて顔を上げた。

「『朽ちたものに生命の息吹を』」
「……おーおー、さっすが。有難いねえ、目が見えらあ」
「ボクが『顔無ノウェルズ』持ってこなかったらどうするつもりだったのさ」
「お前がそんなヘマする奴かよ」

 けけ、と笑いながらも、再構築されていく視界、癒えていく傷を認識して、『顔無』は声の主を注視した。黒髪黒瞳の美女が、天球儀を象った演算機を手にそこに立っている。くるくると回るそれの名は『顔無ノウェルズ』――『顔無』愛用の機械精霊である。
 悲鳴は止まない。先程まで『顔無』を拷問していた男は、自身の顔を押さえてのたうち回っている。しかし、その身体のどこにも傷はない。男の様子を見てふん、と鼻で笑った『顔無』は、頭の中の情報を整理して、ああ、とわざとらしい声を出す。

「『思い出した』わ、お前が知りたいこと……、つっても聞こえてねえか」
「いじめられてカワイソ。殺しといてあげる?」
「ヤだよ。俺だって痛ぇんだからなこれでも。んで? 『目標』は?」
「達成しましたー、ボクを誰だと? しっかし美女見て鼻の下伸ばす奴は総じて小物だねえ、しかも大体ヘタクソだし」

 口許を隠してころころと笑う美女に、ああそうかよ、と『顔無』は白い目を向ける。十全に身体が動くようになったことを確認してから、『顔無』はゆっくりと立ち上がった。悲鳴の声は弱くなってる――最早、声を上げる気力もないのだろう。

「ほら、抑止庁ルーラーの奴らがよく言うだろ? 目には目を、歯には歯をって。俺はお前に痛めつけられたんだから、俺の痛みはお前が知るべき、だよなあ?」

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