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06
12月に入って、世の中は寒くなってきたらしい。空気はひんやりしているし、「急に寒くなったねえ」という会話が耳に入るようになった。俺は『終宵』と代わってから、寒さ暑さというものは実感としては感じない。暑そうだなー寒そうだなーが分かるくらい。便利と言えば便利だ。
今日はアケもメイも所用だとかで神社の外に出ている。外に出ることができない俺は行ってらっしゃい、と見送るのみ。話し相手もいないので、ぐるっと神社の見回り。これがやること結構あって、意外と大変だったりする。見回りが終わったら、社務所で喋ってるのをぼーっと聞く。内容はあんまり頭に入ってこない。多分俺が特に興味のない世間話をしてるせい。聞かなくていいや、って頭が判断してるんだろう。
さてどうしようかな、と思っていた俺の耳に届いた、階段を上ってくる足音。誰か来たことを示すその音に従って、社務所から出る。鳥居の向こう側から現れたのは、チェック柄のマフラーを首に巻いた女子高生。
ぺこり、と一礼して顔を上げた彼女と、目が合った。
「……え」
「え?」
目が、合っている。真ん丸に見開かれた瞳が、真っ直ぐに俺を見ている。勘違いじゃない。
数秒の沈黙の後、女子高生がそっと後ろに下がってきょろきょろと周囲を見回す。多分、来た場所が間違えてないかどうか確認してる。多分合ってると思います。違うのは俺だけです。いや、何でこの子俺のこと見えてるんだ?何も分からない。
「……どういうこと、有明も黎明も何考えて、いやちょっと待って……?」
「えっと……?」
「そもそも終宵はどこ行ったの……」
「ええと……終宵は俺だけど……」
一人でぶつぶつ言い始めた女子高生に、思わず声を掛ければ。き、と強い目で睨みつけられた。怖い。普通に凄味がある。
強い足取りで神社の中に入ってきた彼女は、そのまま黙って手水舎で手と口を清めて。……あ、ちゃんとしてる。と思ったのは、俺がその作法を覚えたということでもあるのだろう。すっかり神社暮らしも長くなってきたもんな。
「……私は天賀谷 熾葵」
「え」
「あ・ま・が・や・さ・か・き。私の名前。他の人から見たら私独り言言ってるやばい奴、察して」
「あ」
手を拭きながら、ぼそぼそと。辛うじて聞こえるくらいの音量で、女子高生は言う。この子にはやっぱり俺が見えていて、そして俺が普通見えないことも分かっているのか。そういやさっき有明と黎明の名前も言ってた。
「で、あなたの名前は?」
「だから終宵、」
「違う。『あなた』の名前を聞いてるの」
いやだから、と繰り返しかけて、黙る。違う、彼女が聞いてるのはそういうことじゃない。それは分かる、でも俺は『終宵』で。だから俺が答えるべき名前は。
……答えるべき名前、他にあったっけ。
ハンカチを鞄に仕舞って。じっと俺を見上げた彼女の瞳は、少し、悲しそうに見えた。