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神僕engage

04

 日々過ごしていれば、嫌でもよく来る人の顔は覚える。
 雨の日以外は毎朝参拝しに来るおばあちゃんは、そんなに段数がないとはいえ石段もしっかり登ってくる。ちゃんと神社の作法に則って参拝だけして帰っていく、時間にして10分いるかいないか。

「あの人毎日来んのな」
「ああ、数年前から。旦那さんが病気かなんかで、それを理由に神社にお参り始めた人だよ」
「へえ……」

 俺にはいつも、「おはようございます」の挨拶しか聞こえない。ここに来始めた頃は何かお願い事とかしてたんだろうか。最近は旦那さんのことでお願いすることはなくなったってことかな。お願いすることはないけど、朝の散歩として参拝はルーティンとして続いてる、という感じなんだろう、多分。
 今日もゆったりとした足取りでやってきたおばあちゃんは、手を合わせておはようございます、とだけ挨拶している。別にそれ以上何か話しかけてくるわけでもない。毎日律儀にお賽銭も大変だろうに。

「ああいう人って結構いんの?」
「まあ、昔に比べりゃ減ったけど。不思議なもんで、信仰としてじゃなくても人間ってのは神社で神様に手を合わせるからな。ああいう人がいなくなるっつーのは、この神社ではあんまないんじゃないか」
「ふーん……?」

 まあ、俺でも初詣に行けば神社で手を合わせる。細かい作法とか何も知らなくても、神社という場所はそういうものだ、っていう意識が刷り込まれているというか。まあ、神様なんか信じちゃいないのに、そのくせ神頼みだってするか。大学合格しますようにとか、就職決まりますようにとか、したな。就職は決まんなかったけど。
 普段全然縁がない場所だと思ってたけど、神社って意外と人が来る。所謂『日本人の感覚』っていうのはこういうことなんだなあ、って今更しみじみ実感した。まあ世の中には落書きするやつとか悪いことするやつもいるけど、そういうのは少数派の筈だ。
 お辞儀をして帰っていくおばあちゃんの後ろをついていく。俺はここから出れないから、鳥居までのお見送り。

「気をつけてな、ばあちゃん」

 話しかけたところで気付かれるわけじゃないけれど。
 それでも何となく気になって声を掛けたら、急におばあちゃんが振り向いた。びっくりした俺のことはきっと気付いていないのに深々お辞儀をして、ゆっくり石段を下りて去っていく。

「……っくり、した」
「タイミングよかったな、代理」

 神社を去る時は、お辞儀をして去っていく。そのタイミングに俺が声を掛けただけ。ただ、それだけ。
 それだけなのに、どうしてだか気持ちが通じた気がして。思わず口元が綻んだ俺の背を、ばしりとアケが叩いた。

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